Category Archives: Journal of Arts on Space-Time Composition and Enterprise_Japanese

合奏における社会的距離の問題点とARを用いた改善策の検討

Submitted 28 Jun 2021

本研究ではAR(Augmented Reality)を用いて指揮者と奏者、および奏者間の社会的距離を保ちながら、心理的・認知的距離を縮小して合奏の精度を維持・向上できる新しい演奏環境を提案する。新型コロナウイルスの蔓延により人々の集まりが厳しく制限される中、二人以上の奏者が集まる合奏において奏者同士(あるいは指揮者と)の距離を保ちながら演奏する必要性が生じた。物理的な距離が離れると、演奏家は、奏者同士や指揮者からの合図を視覚並びに聴覚を用いて確認しているので、合奏の精度が落ちる要因になる。リズムを合わせ難くなり、テンポの遅い合奏になったり、フレーズの微細な変化が感じ撮れなくなり、繊細さを欠く演奏になる等、表現上の限界に直面する。

我々研究室ではこのような問題点の改善にARを用いた合奏環境の構築を試みている。本研究ではまずカメラとモニターを用いて初期の試行と解析を行った。指揮者、独奏者と奏者との間にカメラとモニターを設置し、カメラから撮った指揮者や独奏者の動きを、リアルタイムで他の伴奏奏者が演奏中に確認できるようモニターに映し出した。モニター設置前後の合奏精度は、録音データのフーリエ解析や自己相関解析を用いて評価した。モニター設置後のスペクトルや相関関数から、音程やリズム合奏の精度が上がったことを示すことができる。本研究では、指揮者や奏者同士がお互いの周辺視野から見える場所にいなければならないという距離に対する限界を、ARを用いて乗り越えようとした初期の試みであり、引き続き多様な技術を導入、社会的距離を保ちながら指揮者と奏者同士が相互コミュニケーションできる合奏環境を構築、高精度なオーケストラ合奏を実現する環境支援システムの構築を継続してゆく。

日本の医療論文における「マインドフルネス」と関連する概念の分析 その2

Submitted 21 Jun 2021

本稿では,BERTと呼ばれる⼤規模ニューラルネットワークによる,意味論的なテキスト処理を,マインドフルネスとタイトルにある医療系論⽂の⾃動分類と,意味論的処理に試⽤した.先の頻度主義的分析と同じ,医療関係834論⽂のタイトルをBERTへの⼊⼒とした.この⼊⼒によって計算される,768次元の圧縮された内部表象ベクトルを,階層的クラスター分析で分析した.先の頻度主義的分析では,単語同⼠の共起確率により,単語をマッピングし分類したが,この分析で分類されるのは論⽂のタイトルである.その結果,5つの応⽤の⽅向性を⾒出すことができた.それらは,1.広がる⼀般的な応⽤:ストレス軽減,アンガーマネジメント, うつ予防,メンタルヘルス,レジリエンス,ボジティビティ, 2.新たな応⽤:医療従事者向け,グリーフケア,リハビリテーションなど, 3.以前からある⼼理療法との合わせ技:森⽥療法,認知⾏動療法, ACT, 4. 臨床応⽤例:慢性疼痛などの難治症状への応⽤, 5. ⽣理⼼理学,脳機能計測による検証:fMRI, NIRSによる計測であった.〇〇に及ぼす影響(あるいは効果)といった⽂型の類似性による分類結果も得られた.さらに,同じ⼿法でアブストラクトを処理すると,当事者としての主観的な報告/治療への実践報告/客観的レビューの⽂章スタイルで⾃動的に分類傾向が⾒られた.意味処理に基づく⽂献の⾃動分類,レコメンデーションへの応⽤も期待できる.

日本の医療論文における「マインドフルネス」と関連する概念の分析 その1

Submitted 19 Apr 2021, Revised version accepted, 5 May 2021

 マインドフルネスは,学部向けの臨床心理学概論で第5の心理療法として取り上げられるほど,急速に浸透している.医療において,どのように使用されているのか,テキスト分析により調べた.CiNiiで“マインドフルネス”で検索した医療関係834論文のタイトルについて分析を行なった.まず,単語の出現頻度を計算して頻出単語を検討した.心理療法,認知行動療法との強い関連がしめされ,医療現場,臨床現場での実用が示された.次に単語の共起性に基づく分析を行なった.出現回数10回以上の215単語の共起行列から,MDSにより単語の近接性の2次元マップを作成,同じ行列に階層的クラスター分析をおこなって単語を分類した.
 大まかな傾向を掴むために,クラスター毎に代表的な単語を選んだ.[ ]は,同一のクラスターに分類されていることを示す.[森田療法,禅],[怒り感情のコントロールDetached Mindfulness(と関連する)受容,怒り],[マインドフルネストレーニング(と関連する)呼吸,注意,訓練,機能],[認知行動療法,(その英語での)CBT, 不安,低減,介入], [発達,受容],[助産,育児],[看護,保健,産業衛生,Self-Compassion,幸福,ファシリテーション].共通性が高いのが[地域,リハビリテーション,コミットメント,慢性,疼痛,障害,症状,身体,尺度],[仏教,精神療法,ストレス,教育,実践],ほとんど全てに共通する要素であるのが[マインドフルネス,宗教,祈り],[認知,研究]である.
 以上の分類結果から,既に確立している森田療法や認知行動療法との組み合わせ,ネガティブ感情のコントロール,(患者だけでなく,医療従事者の)ストレスコントロール,慢性疼痛などの難治性の症状への応用,トレーニング手法が,応用と研究の大きな方向性であることが浮かび上がった.森田療法↔︎認知行動療法,怒り感情のコントロール(Detached Mindfulness)↔︎幸福,自身への慈しみ(Self-Compassion)のような対極的関係も見出すことができた.

臨床致死率1二重変異株の毒性評価と社会疫学の必要性

Submitted 26 Apr 2021, Revised version accepted, 27 Apr 2021

新型コロナウイルス感染症の蔓延と克服の現象論的パラメータとして臨床致死率、臨床致死率デリバティヴなどの量を導入、定義し、各国の発表データを解析、大域的な傾向を分析する。2020年12月に開始されたRNAワクチン接種は2021年4月時点で累積接種回数で9億5千回を超えている。イスラエルなど、ワクチン接種の進んだ国の一部では感染者数の減少も見られるが、発症者の死亡率に大きな変化は見られない。またグローバルな感染動向全体にも顕著な変化は観察できない。

逆にワクチン接種の進んでいない大規模感染地域で顕著な致死率の変化と感染者数の増大が確認される。インドでは感染者数の急増が報じられ、背景に「二重変異株」ウイルスの作用が指摘されているが、臨床致死率は顕著な低下を見せている。現地の医療環境に大きな変化があったとは考えられず、弱毒化したウイルスによる病勢の急激な拡大とみることが可能である。本稿は解析の原理と初期解析例を示すもので、他の地域を含め、より詳細な分析を進める必要がある。

水環境データ解析に基づくCOVID 19パンデミックの収束評価 I

Submitted 1 Aug 2020, Revised 21 Sep 2020

水環境データ分析に基づくCOVID 19 ならびにそれに後続すると思われる 2020 年代の グローバル・パンデミックの収束や地域安全性の評価を判定するシステムを提案する。 機械学習等を用いた下水管ネットワークの動態分析と 最適取水条件での 汚水 PCR検査、 GIS を活用した統合解析 から、地域住民の感染度合を疫学評価することが 出来る 。 安全性の確認されたエリアに 対しては「収束宣言」「安全宣言」など、 社会に安心情報が 発信 でき 、 根拠に基づいて 経済活動継続の判断を下すこと も 可能となる。

パンデミックから懸念される教育停滞と経済損失

Submitted 02 May 2020

COVID-19 の世界的蔓延のため各地で都市封鎖や学校の閉鎖が進み、教育の遅滞が中⾧期的に
経済損失に結びつくことが懸念されている。この問題に対して、従来は貧困に結び付けて予測が
議論されてきた。本論考ではOECD の学習到達度調査PISA の成績分布をもとに、学力低下と
経済損失を相関させるモデルを構築、検討することで、履修の時間や形態に制約が掛かるパンデ
ミック期間中や克服の直後に、どのような科目に注力して教育の実施あるいは再建を検討すべ
きか、国ごと、あるいは社会ごとの実態に即して検討する最初のフレームワークを素描する。

新型コロナウイルス肺炎致死率の変動に基づく医療崩壊の定量分析

Submitted 22 Apr 2020

COVID-19の世界的蔓延に伴う医療の崩壊が懸念されているが、医療崩壊によって疾病の致死率が上昇することは必ずしも強く認識されていない。2020年4月現在、COVID-19は先進国を流行の中心とし、医療崩壊の指標として残存ベッド数等が検討される。だが今後、途上国や紛争地域等への蔓延を念頭に置くとき、より一般的な指標の導入が望まれる。本稿では致死率をパラメタとして医療崩壊を数値指標で評価するとともに、社会格差と致死率の相関など問題克服の新たな解析指標を提案する。

AIを用いた指揮技法のスペクトル解析

合奏を収録した2次元の動画データから指揮の身体運動情報を抽出し、モデル身体を用いた機械学習システムによって2次元および3次元の演奏運動データを構成、そこにブーレーズ=伊東のアンギュラーダイナミクスを適用することで、指揮の基本的な運動を身体各部位関節の角速度、角加速度に分解し、そのフーリエ変換から筋骨格系の演奏運動のスペクトルを導出した。演奏の身体運動そのもののスペクトルやハーモニクスを扱う議論はかつて存在しない。ここあら多様な演奏の身体技法を、新たな形で体系化することが期待される。

暗号資産技術に基づく 新しいP2P複式簿記と決済ネットワーク(1)

ブロックチェーン技術は、ビットコインに代表される暗号資産の基礎を成し、急速に普及している。この論文では、複式簿記の手法を用いた理論的なフレームワークを体系的に再構築する。ブロックチェーン技術は単式簿記による台帳の不完全な形態として解釈することが可能である。その台帳はビットコインのpeer-to-peerネットワークですべての利用者によって共有され、そのシステムの決済を可能としている。システムにおける適切な会計の実施を保証するためには、台帳や他の会計に関連する情報は複式仕訳によって構成されている必要があり、それが正しく会計監査を実施することに繋がる。
ブロックチェーン技術は信用中心が不在のpeer-to-peerネットワークシステムとして提案された。しかし、ビットコインの利用者たちは自分たちの利益のみを追求してビットコインの本性を貨幣から投機商品へと変質させてしまった。この困難を克服するために、Facebookとその協力企業は新たな準備通貨として“Libra“を提案した; それは法定通貨と兌換可なstable coinないしsovereign coinである。ところで、Libraの管理主体Libra Associationは大企業で構成されており、利潤動機に基づく活動から回避することは不可能である。 したがって、この組織は公正かつ公平な金融政策によってLibraシステムを安定させることができない(岩井の通貨不定性の原理)。
私たちは、安定性が公平に維持された利潤動機に基づかない金融システムとして、中央銀行のみから構成されたpeer-to-peerネットワークを提案する。そのようなネットワークを、私たちは新たなブロックチェーン・システムとして研究しており、中曾-岩井のポスト・ブロックチェーンシステムと呼んでいる。この論文では、私たちは主に基盤となるアウトラインのみを示し、その詳細については引き続く論文で展開していく。