Category Archives: Journal of Arts on Space-Time Composition and Enterprise_Japanese

⾳響スペクトルの線幅解析と⾮線形引き込みによる⾳程カップリング

Submitted 19 May 2022

楽器⾳⾊はアナログベースのオーディオロジー期以来、⼀貫してスペクトル成分の組成⽐で決定されるとされていた。他⽅、加算合成による⾳⾊合成の品質には限界があり、⼯学応⽤ではバンドパスフィルタを⽤いた減算合成がもちいられてきた。私達は⾼い周波数分解能を持つスペクトル分解法を確⽴、楽器⾳⾊を構成する個々のスペクトル成分の線幅を評価してユニソンならびに合奏における⾳程のカップリング融和性を調べた。従来の線形調和観と全く異なる、しかし⾳楽合奏の現場では広く知られる⾮線形調和の構造が明らかになった。

東アジア楽器音色の非線形特性

Submitted 20 May 2022

⻄欧⾳楽の各種発⾳原理に基づく楽器⾳⾊と⽐較しながら、東アジアの楽器⾳⾊について、とりわけそのスペクトル線幅に注⽬して、  スパース FFT ⾼周波数分解能解析と、線幅解析を⾏った。東アジアの多くの楽器が、とくに絹⽷や動物素材など、歴史的な発⾳素材を  ⽤いる場合、しばしば半⾳を超える周波数幅を持つことを初めて確認した。⽂献に基づく⾳律研究と並⾏して、楽器発⾳素材の物性から 再確認することで、従来注⽬されてこなかった⾮線形引き込みに基づく調和現象を、客観測定に基づいて実証した。

導電性高分子ナノシートの両面グラヴィアコーディングと   透明ピエゾアクチュエータの交流特性

Submitted 18 May 2022,  Revised version accepted 28 May 2022

導電性高分子 PEDOT:PSS のナノシートをマイクロ・グラビアコータ(Micro-gravurecoater)を用いてピエゾフィルムの両面に積層、導電性高分子ピエゾ・アクチュエータを作成し、その交流電流特性を測定した。薄く軽量なナノシート電極であるにもかかわらず、入力電圧振幅 20V で 10Hz から 20MHz 周波数を変化させ交流電流特性を測定したところオーディオ帯域の出力で平均 0.26mA の出力が確認された。またサンプルのサイズを変化させて交流周波数特性を測定したところ、ピエゾフィルムの延伸方向にサンプルを長くすると低域での出力が増強し、長さ2倍に対してオーディオ帯域で出力が平均160%に増大することを確認した。

帯域雑音エッジ聴音程の非線形特性

Submitted 18 May 2022

高いQ値をもつデジタルフィルタで狭帯域雑音を系統発生させ、上界が可聴域上限を超えるようにした、このような刺激列と、対応する正弦波の刺激列を用い、上行と下行の双方で音程識別の認知テストを行ったところ、強いヒステリシスが観測され、帯域雑音での高域周波数認知は、正弦波と比較して弁別が著しく困難であることが判明した。音声言語の子音聴など、ヒト聴覚の高帯域での認知は大半が帯域雑音であり、旧来の正弦波を用いる聴覚検査では検出できなかった、ヒト高周波聴の非線形な特性の存在が明らかになった。

帯域雑音エッジ聴音程の非線形なふるまいについて

Submitted 18 May 2022

バンドパス・フィルタを通過した帯域雑音を聴取すると、ヒト聴覚はバンド端付近の周波数の正弦波と同様の音程を知覚する。1962 年、フォン・べケシーによる発見以来「エッジ聴」として知られるこの現象は、従来ローパスあるいはハイパスフィルターで研究されてきた。私達はデジタルベースの狭域バンドノイズを系統的に用い、聴取される等価周波数(Fermi frequency)を定義、その測定法を確立するとともに、同じ境界周波数であってもエッジ聴のフェルミ周波数がバンド幅の関数として変化する事を確認した。

Sparse FFT : 新しい高分解能周波数解析とその応用

Submitted 16 May 2022

短時間高速フーリエ変換のアルゴリズムは便利な方法であるが、原理的な周波数分解能 の上限を持つ。我々は Sparse Vector を導入することで、オーディオ帯域で 0.01Hz 以下の高 分解能でのスペクトル解析を実現した。これにより、とりわけ聴覚認知の低域側では、中枢 神経系に送られる周波数情報のインパルスについて、ヒト知覚の認知周波数幅より細かなス ペクトル分解が可能となる。認知科学の本質的な問いである諸知覚のバインディング問題に も、より直接的な人間の意識現象の謎へのアプローチが可能になる。

Maqam2 度と 8 回対称平均律

Submitted 9 May 2022

20 世紀初頭から西欧音楽の枠組みに様々な導入が試みられながら、定着に至らない音律に4 分音がある。本稿では「短 3 度の2等分割」による maqam seconds 音程を導入し、それによる 8 分割平均律の構造を示す。maqam 音程は演奏上容易に聴取、実現できる利点を持ち、また Bartok-Lendvai の「中心軸システム」を、対称性を保ちつつ脱欧州中心化する自然な拡張が可能である。

バルトーク民謡採譜の音程精度について

Submitted 9 May 2022

民族音楽学のフィールドワークを創始したバルトークの採譜は、音程の精度に関しては
半音の分解能に留まり、以後の音楽学に功罪両面の影響を残している。彼が終生用いたエ
ジソン社製・蝋管蓄音機のワウ/フラッターノイズ解析から 20 世紀前半の音程分解能の
限界を評価し、21 世紀、音楽フィールドワークの採譜に求められる条件を明らかにする。

合奏における社会的距離の問題点とARを用いた改善策の検討

Submitted 28 Jun 2021

本研究ではAR(Augmented Reality)を用いて指揮者と奏者、および奏者間の社会的距離を保ちながら、心理的・認知的距離を縮小して合奏の精度を維持・向上できる新しい演奏環境を提案する。新型コロナウイルスの蔓延により人々の集まりが厳しく制限される中、二人以上の奏者が集まる合奏において奏者同士(あるいは指揮者と)の距離を保ちながら演奏する必要性が生じた。物理的な距離が離れると、演奏家は、奏者同士や指揮者からの合図を視覚並びに聴覚を用いて確認しているので、合奏の精度が落ちる要因になる。リズムを合わせ難くなり、テンポの遅い合奏になったり、フレーズの微細な変化が感じ撮れなくなり、繊細さを欠く演奏になる等、表現上の限界に直面する。

我々研究室ではこのような問題点の改善にARを用いた合奏環境の構築を試みている。本研究ではまずカメラとモニターを用いて初期の試行と解析を行った。指揮者、独奏者と奏者との間にカメラとモニターを設置し、カメラから撮った指揮者や独奏者の動きを、リアルタイムで他の伴奏奏者が演奏中に確認できるようモニターに映し出した。モニター設置前後の合奏精度は、録音データのフーリエ解析や自己相関解析を用いて評価した。モニター設置後のスペクトルや相関関数から、音程やリズム合奏の精度が上がったことを示すことができる。本研究では、指揮者や奏者同士がお互いの周辺視野から見える場所にいなければならないという距離に対する限界を、ARを用いて乗り越えようとした初期の試みであり、引き続き多様な技術を導入、社会的距離を保ちながら指揮者と奏者同士が相互コミュニケーションできる合奏環境を構築、高精度なオーケストラ合奏を実現する環境支援システムの構築を継続してゆく。