Category Archives: Journal of Arts on Space-Time Composition and Enterprise_feature

微分音程の新しい考え方:MAQAMと完全2度

Submitted 31 Oct 2025

西欧近代音楽の文脈で微分音程を扱った作曲家としてブゾーニ、バルトーク、ハーバ、ヴィシュネグラツキ―などの名を挙げる事が出来る。個別の作品には現在でも演奏されるものが見られるが、微分音程を扱う一般的な方法が確立しているとはいいがたい。本稿では短3度をほぼ2等分する「3/8音」を用いた「移調の限られたMAQAM旋法」と、これに解決の引力を与える「完全2度」音程の新たな考え方など、詩人・映画監督だったFrank Diamand氏との議論から発展させた私の音楽技法を紹介する。

STREAMM :AIを使いこなす人材を育てる教育カリキュラム(1)

Submitted 31 Oct 2025

2022年以来、急速に発展し、普及を見せる生成AIを脳の観点から検討し、そこに決定的に不足する要素を確定するとともに、集中的に伸ばす教育システムとしてSTREAMMの考え方を紹介する。2025年時点の深層学習は脊椎動物全般に共通する脳の階層構造をモデル化したもので、ヒトに特有な高度に進化したモジュールを有さない。進化と発達の両面から考えて、これに相当するヒト~高等霊長類に特有の機能として再帰的な自己意識 , recursive self-consciousness に注目し、これに訴える自己言及的self-referentialityな課題を用いることで、いわゆる非認知能力Non-cognitive abilities を伸ばすSTREAMMカリキュラムの例を紹介する。

教育・介護における身体性拡張型AR-IOシステム「AIReE」の開発と評価

Submitted 31 Oct 2025

近年、GIGAスクール構想などにより、教育現場では幼少期からタブレット端末を利用した学習が一般化している。しかし、これに伴い、視力の低下や集中力・協働性の欠如などの問題が報告されている。筆者の身近でも、幼児期からタブレットを用いた反復型デジタルドリルを行っていた子どもたちが近視を発症する事例を実際に目の当たりにした。こうした現象は「デジタル学習のペイン」として、教育現場における新たな社会的課題となっている。本研究では、これらの課題を解決するため、身体行為とデジタル操作を統合した新しい入出力システム「AIReE:Augmented Interactive Real-time Rendering for Education(エアリー)」を提案する。AIReEは、空中で手を動かして描く身体的な操作を、カメラ映像と拡張現実描画によってリアルタイムに反映するAR-IOシステムである。ユーザ自身の身体が画面上に映り、その動作が描画として可視化されることで、従来のタッチ操作やキーボード入力では得られなかった身体的フィードバックを提供する。本稿では「AIReE」のシステムアーキテクチャ、性能評価、および教育や展示の文脈から得られた実用的なフィードバックを紹介する。その結果、AIReEは、デジタル学習における過剰な画面依存を補完し、身体性・対話性・創造性を取り戻す教育支援基盤として、さらにリハビリテーション支援にも新たなパラダイムを提示する可能性が示唆された。

ヘルムホルツ型不協和の動力学的解消について

Submitted 1 July 2023

1863 年、ヘルマン・フォン・ヘルムホルツ Hermann von Helmholtz は彼の主著『DIE LEHRE VON DEN TONEMPFINDUNGEN ALS PHYSIOLOGISCHE GRUNDLAGE FUER DIE THEORIE DER MUSIK(音楽理論の生理学的基礎づけとしての楽音知覚教程)』 において「和音」の協和性を近接する純音間の「うなり(beats, die Schwebungen)」から 解釈する説明を試みた。今日の観点からは誤った推論であるが、彼の先駆的な試みは原著 以降 160 年間追試されず、凌駕する者も現れなかった。本論文ではギェルギ・フォン・ベ ケシー György von Békésy によって 1962 年に報告された「エッジ聴」の現象をもとに、ヘ ルムホルツ型の「うなり」で基礎づけられた「不協和」の現象は、和声構成音のスペクト ル線幅を変化させることで制御可能で、不協和感を消失させることすら出来ることを簡潔 に示す。

⾳響スペクトルの線幅解析と⾮線形引き込みによる⾳程カップリング

Submitted 19 May 2022

楽器⾳⾊はアナログベースのオーディオロジー期以来、⼀貫してスペクトル成分の組成⽐で決定されるとされていた。他⽅、加算合成による⾳⾊合成の品質には限界があり、⼯学応⽤ではバンドパスフィルタを⽤いた減算合成がもちいられてきた。私達は⾼い周波数分解能を持つスペクトル分解法を確⽴、楽器⾳⾊を構成する個々のスペクトル成分の線幅を評価してユニソンならびに合奏における⾳程のカップリング融和性を調べた。従来の線形調和観と全く異なる、しかし⾳楽合奏の現場では広く知られる⾮線形調和の構造が明らかになった。

東アジア楽器音色の非線形特性

Submitted 20 May 2022

⻄欧⾳楽の各種発⾳原理に基づく楽器⾳⾊と⽐較しながら、東アジアの楽器⾳⾊について、とりわけそのスペクトル線幅に注⽬して、  スパース FFT ⾼周波数分解能解析と、線幅解析を⾏った。東アジアの多くの楽器が、とくに絹⽷や動物素材など、歴史的な発⾳素材を  ⽤いる場合、しばしば半⾳を超える周波数幅を持つことを初めて確認した。⽂献に基づく⾳律研究と並⾏して、楽器発⾳素材の物性から 再確認することで、従来注⽬されてこなかった⾮線形引き込みに基づく調和現象を、客観測定に基づいて実証した。

導電性高分子ナノシートの両面グラヴィアコーディングと   透明ピエゾアクチュエータの交流特性

Submitted 18 May 2022,  Revised version accepted 28 May 2022

導電性高分子 PEDOT:PSS のナノシートをマイクロ・グラビアコータ(Micro-gravurecoater)を用いてピエゾフィルムの両面に積層、導電性高分子ピエゾ・アクチュエータを作成し、その交流電流特性を測定した。薄く軽量なナノシート電極であるにもかかわらず、入力電圧振幅 20V で 10Hz から 20MHz 周波数を変化させ交流電流特性を測定したところオーディオ帯域の出力で平均 0.26mA の出力が確認された。またサンプルのサイズを変化させて交流周波数特性を測定したところ、ピエゾフィルムの延伸方向にサンプルを長くすると低域での出力が増強し、長さ2倍に対してオーディオ帯域で出力が平均160%に増大することを確認した。

帯域雑音エッジ聴音程の非線形特性

Submitted 18 May 2022

高いQ値をもつデジタルフィルタで狭帯域雑音を系統発生させ、上界が可聴域上限を超えるようにした、このような刺激列と、対応する正弦波の刺激列を用い、上行と下行の双方で音程識別の認知テストを行ったところ、強いヒステリシスが観測され、帯域雑音での高域周波数認知は、正弦波と比較して弁別が著しく困難であることが判明した。音声言語の子音聴など、ヒト聴覚の高帯域での認知は大半が帯域雑音であり、旧来の正弦波を用いる聴覚検査では検出できなかった、ヒト高周波聴の非線形な特性の存在が明らかになった。

帯域雑音エッジ聴音程の非線形なふるまいについて

Submitted 18 May 2022

バンドパス・フィルタを通過した帯域雑音を聴取すると、ヒト聴覚はバンド端付近の周波数の正弦波と同様の音程を知覚する。1962 年、フォン・べケシーによる発見以来「エッジ聴」として知られるこの現象は、従来ローパスあるいはハイパスフィルターで研究されてきた。私達はデジタルベースの狭域バンドノイズを系統的に用い、聴取される等価周波数(Fermi frequency)を定義、その測定法を確立するとともに、同じ境界周波数であってもエッジ聴のフェルミ周波数がバンド幅の関数として変化する事を確認した。

Sparse FFT : 新しい高分解能周波数解析とその応用

Submitted 16 May 2022

短時間高速フーリエ変換のアルゴリズムは便利な方法であるが、原理的な周波数分解能 の上限を持つ。我々は Sparse Vector を導入することで、オーディオ帯域で 0.01Hz 以下の高 分解能でのスペクトル解析を実現した。これにより、とりわけ聴覚認知の低域側では、中枢 神経系に送られる周波数情報のインパルスについて、ヒト知覚の認知周波数幅より細かなス ペクトル分解が可能となる。認知科学の本質的な問いである諸知覚のバインディング問題に も、より直接的な人間の意識現象の謎へのアプローチが可能になる。